- good morning -
何だかとても気分がいい。
居心地は良いのだけれど、うきうきするような、うずうずするような、そんな感覚。
昨夜の酔いが残っているのだ、という意見も頭をよぎったが、
右耳から寝息が聴こえてくると、理由はすぐに分かった。
眩しさを警戒して薄く目を開くと、淡く色づいた見慣れたベッドルームと、彼、村越の腕。
いつからこの姿勢でいたのだろう。
これでは村越が身体を痛めてしまうかもしれない、と思いつつも、振りほどく決心はつかない。
だって、気持ちが良いのだ。
彼の腕の中は。
思わず顔が綻ぶ。
寝ている合間にも傍にいたなんて。
いつも村越の傍では衝動を押さえきれなくなってしまう。
小さなこともそうだが、彼自身に対することもそうだ。
自制が効かなくなる程、他人が愛しいと感じたのは村越が初めてだった。
自分には無縁の感情だと思っていたが、
もしかするとこれが激情とか独占欲とか呼ぶ類のものなのかもしれない。
これでは本当に少女みたいだ、と気付き思わず鼻で笑ってしまう。
早朝の静けさに響いた声に自分で驚き、
起こしたかな、と村越を伺うが規則正しい寝息は乱れていない。
それはそれでちょっと不愉快だ。
だって自分はこんなにも村越に想いを募らせているのに、
当の彼は夢の中だなんて。
彼の夢の中に自分はいるのだろうか。
いつもは無口で無愛想な彼だが、
夢の中でくらいは愛を語り、情熱的なキスもしてくれているかもしれない。
そんなことを考えると、ますます腹立たしく思えてくる。
「コッシー」
名前を呼びながら、上体を起こし、サイドテーブルに置いてある水を一口、口に含む。
持ち主に良く似た、生真面目なデジタル時計は5時09分を告げていた。
うーん、と顔をしかめる村越。
いつもは寝覚めの良い彼はすぐ目を開けてくれるのだが、今日は珍しい。
「コッシー、朝だよ」
「・・・今何時だ」
目を閉じたままの村越から答えが返ってきた。
憎らしい。
「・・・僕にキスする時間だよ」
薄く目を開いた村越が、更に苦々しい顔になる。
「…もう少し寝かせてくれ」
ジーノ抜きで愛に溢れる眠りに就こうとする村越の右頬を、
左手でそっと、撫でるように触れた。
暖かい。
「夢の中の僕にじゃなくて」
今度は村越の目が開いた。
不機嫌そうなしかめ面も、嫌いじゃない。
自分に向かって、自分だけを見ているなら。
「今、キスしてよ」
END
自分が先に起きちゃったら王子は起こすだろうな・・・と思った!
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