-Happy New year -




 ピ・ピンポーン
 
 
強く押しすぎると音が重なるインターホン。来客は黒田に違いない。
寝不足でぼんやりする視界。モニターの映像をろくに見ないままに杉江はどうぞ、とだけ言って玄関ロックを解除した。
 
「おうおう、新年から暗い顔してんなよ」
「きのう、大学の友達が来ててさ…紅白やらバラエティやら見ながら酒盛り」
「楽しそうじゃねえか」
「最中はいいんだよ。でも、日付跨いでアルコールはなぁ…胃が重い」
「年寄りみたいなこと言ってんなよ」

 お互いまだ20代だ。体育会系の伝統で鍛えられてもいる。それでも体が資本の職であるから、羽目を外すのは年に何度もない。
 年末年始くらいはというのは怠惰な考えではあるけれど、笑い話ができるのも、昨年を無事乗り越えられてこそだ。
 
「その様子じゃお前、まだ年賀状見てないのか?」
「うん。今さっき起きたところだし」

元旦だというのに食パンをトースターに放り込む杉江に渋い顔をする黒田。 
一人暮らしで餅は買っても余らせてしまうのに、きっと黒田は今年も律儀に用意したのだろう。
今度亀井あたりを連れて餅料理を食いに行ってやるか、などとぼんやり思いつつ杉江はマーマレードを冷蔵庫から出した。
 
「見ないのか、年賀状」
「見るよ。これ食ったら」

ジャムをテーブルに置いたところでそういえばマーガリン使わなきゃなと思い出す。
のろのろと台所に戻る背中に視線がちくちく刺さる気がする。
黒田も食べたいのだろうか。
無言でパンの入ったビニールを掲げて見たが、いらん、とでも言うように手を横に振られた。
冷蔵庫から出したてのマーガリンは固い。柔らかくなるまで待つ間にコーヒーを入れるかとカップを用意する。
黒田はアメリカンが好きだ。インスタント容器の蓋で計量すると怒られるので、スプーンを取りに戻ろうとしたとき。
 
「ああーもー!何でお前はそう朝はダラダラなんだよ!早く年賀状見ろ!!」

あとは俺がやるとコーヒー用具一式を取り上げられ、杉江は首を傾げた。
何で年賀状。サッカー選手という多少特殊な職業ではあるが、社会人は社会人。礼儀として送ったり貰ったりはする。
けれど、特別楽しみにするような年齢でもない。
貰いそうな人には送ってあるし、新人たちの分は寮に、達海監督にもクラブハウス宛てに送った。
あと、誰か忘れているだろうか。
ポストに届いていた年賀状の差出人を適当にチェックしながら、杉江は「あ」と声を上げた。殿山充。住所を聞くのを忘れていた。

「殿山って南千住に住んでるのか…あれ、いつ住所教えたんだっけ」
「俺が一緒に教えといたよ…そうだスギに殿山の住所教えとくの忘れてたぜすまねえ…
 ってあいつの事はいいんだよ!コシさん!コシさんの年賀状!」
 
ふと、黒田の手元に置かれている葉書に気づく。宛名は黒田一樹様、差出人は村越だ。

「ふるさと小包でも当たった?」
「まだ分かんねえよ!いいから、お前の見ろって」

相方の行動を謎に思う。いくら尊敬しているからって、年賀状をわざわざ見せに来るか?
余程嬉しい事が書いてあったのか。何かとセットの二人であるから、被っていないか確かめに来たのかもしれない。
「杉江 勇作様」とワープロ字で書かれた葉書。宛名側は特に変わった所はない。

「お」

長い耳と丸い目。というより黒い点。×マークの口。
白いウサギのマスコットが"HAPPY NEW YEAR"の定型文と一緒にプリントされている。

「可愛いな」

素直な感想を口にすると、黒田の眉が持ち上がった。

「そういう…ただの感想じゃなくてだな…」
「でも兎は去年だよな、葉書足りなかったのかな」

拳を震わせる黒田を無視し、宛名側を確認するとちゃんと平成二十四年だ。イラストも既製品には見えない。

「…俺のもそれなんだ」

物々しく差し出された葉書には、杉江のものと同じウサギが印刷されていた。
ポーズが違う。三輪車に乗って手を振っている。

「そっちも可愛いな」
「だーかーら!可愛いとかじゃねえ、何でコシさんがこんなファンシーな絵柄なのかが問題だろうがっ」
「…選んだの、コシさんじゃないんじゃない?」


◇◇◇


事の起こりは、年末に遡る。

「何でボクがこんなことしなきゃいけないの」
「頼む、他に頼める奴がいねえんだ」




十二月は師匠のような偉い人間でも走り回らなければならないから師走というらしい。
師匠でなくとも歳末の世間は慌ただしいものだ。
プロサッカーチーム・イースト・トーキョー・ユナイテッドの重鎮・村越も例外ではなかった。
同じ職を同じ環境で十年も続ければ色々と人間関係も濃くなってくる。年賀状の宛名書きだけで一仕事だ。
お歳暮やら物品のやり取りは母親に任せているが、それでも毎年手一杯だ。年賀状も人任せにできないものか。
最近は写真屋やコンビニで個人の印刷依頼も受付ている。
今回こそは試そうと毎年目論んでいるものの、十二月まで業務繁忙の職業柄いつも時期を逃してしまう。
月半ばの仕事納めを待ち、5年程愛用しているパソコンの埃を払ってから手作業で取りかかることになる。
今年もそのパターンだった。
達海新監督を迎えてから自分と向き合う時間が増え、もしかしたら早く始められるのではと思ったのは夏の中断期間であっただろうか。
親睦会など細々した雑務はほぼ後輩に任せるようになっていたし、練習と試合の都度ある報告が長引く事はない。
チームに関する事ならば、何事も最終的な決定は達海がやってくれる。
受け入れるか否かに関わらず、自分がしなくて済むというだけでこんなにも楽になるものだとは思いもよらなかった。
何だかんだで救われている。実際、夏のオフ前にはすんなり事が運んだ。冬も大丈夫だろうと、村越は楽観的に構えていた。
それは、天皇杯が終わり、早めのオフシーズンも例年になく明るい気分で迎えようとしていた時だった。

「いやあ、すまん、すまんね村越君」
「謝るんなら、こんな状態になる前に片付けてください」
「だってもうなっちゃったもーん。無理!」

最後の練習の後の、報告会のそのまた後ことである。
達海はクラブハウスの一室で生活している。そこは仕事場というより完全にねぐらであり、その衛生状態は極めて悪い。
もともと身の回りを全く気にしない性格であるから、たまに掃除をするのは有里か村越となる。
本人から頼まれたことなどないが、いつか資料の束とゴミで生き埋めになられては困る。
有里は自分がするからと気遣ってくれるが、健気な彼女に、憧れの選手のパンツを片付けさせるのは気が引ける。
報告会の後にはせめてゴミと洗濯物くらいは持って行くのが慣例になっていた。
その日もいつものようにゴミ袋をまとめた。達海は試合映像を何度も繰り返し観ていた。
生活を顧みないのはどうかと思っても、これだけ熱心であれば説教をするのもためらわれる。
静かに部屋を出ようとした、その時。

本棚が轟音を立てて倒れたのである。
それは正式な本棚ではなく、カラーケースを重ねた簡素なものだった。
床に散乱する紙類を整理するのに有里が持ち込んだものだと聞いていた。
おそらく後で調整するつもりが、彼女も忙しいのでそのまま、達海も気にしないので詰めるだけ詰めるままになっていた。
派手な音とともにベッドの上に紙束が散乱した。達海は「おおっと」と言っただけで平然としていたが、村越は青ざめた。
もし寝ている時だったら、取り返しがつかない事になっていたかもしれない。
年末年始も実家に帰らず、ここで仕事をするのだと達海に聞いたばかり。
出勤する人間も少なくなっていく時期、もし、万一のことがあったら。

「…監督、掃除をしましょう」
「え〜」

どうせすぐ汚くなるとぶちぶち文句を言う達海は放置したまま、モノを要不要で分類し、ゴミも仕分ける。
置いたままになっていたテレビ台やベッドにも転倒防止の固定を施した。
埃取りの為に一度ケーブルを引っこ抜いてしまったので、途中から達海は寝てしまったが構わず作業は続行した。
何とか人並みの生活環境を整えるころには、日はとっぷり暮れて深夜に差し掛かるような時間になっていた。

(しまった…)

練習は午前中で終わりだったので、午後は買い物に行くつもりだった。年末の買い出しだ。
明日からは別件の予定がある。調整しなくては。オフだからといって急に暇になるわけではない。
取材や人に会う約束などは都合ですぐ変えられるものではない。本当にプライベートな用事は先送りになる。
村越はようやく年賀状の事を思い出した。間に合うだろうか。元旦に確実に届くのは二十五日まで。

「おおー、ありがとうな村越ィ。やっぱキレイだと気持ちいいねえ〜初練習まで持たせてみるかな」

全く信用のならない希望観測を口にする達海。年末の修羅場を予測し、村越は頭を抱えた。
 
 
 

「別に僕じゃなくてもさぁ、クロエとかサックなら、コッシーの頼みなら喜んでやるんじゃない?年賀状書き」

村越が押し付けた葉書パックを睨みつけ、ジーノが唇を尖らせた。

「これからやる奴に頼めねえよ」
「僕ならいいっていうの?」
「お前昔、要らないって言っただろ」

かくして迎えた晦日である。
出鼻を挫かれたものの、村越は確実にオフの日程をこなしていった。
しかしそれは私事を犠牲にした上でのこと。挨拶回りやら出掛ける用事が済んだのはつい前日。
上司や先輩など目上への年賀状書きは昨夜遅くに仕上がったばかり。
残るはチームメイトとなったところで、葉書の在庫が尽きた。時刻は正午前。万事休す。
臨時で入った雑誌の取材があったのだ。
マスコミに仕事納めはないのかと恨みたくもなったが、オフシーズンなら取材しやすいのであろう。
お忙しい時期ですから無理には、と言われても、はい忙しいですと言って断れるはずもない。
届けるのは葉書ではなくて心だとコマーシャルでもやっていた。正月三が日中に間に合えば良いではないか。
何よりもチームの宣伝の為だ。仲間に心で詫びつつ、箱根駅伝が終わるまでには届けと念じながら完成分を投函した。
己の不甲斐なさに失望しつつ、葉書を買って戻ると王子様が来ていた。
日本の寒い冬は嫌だと毎年南国へバカンスに行ってしまうジーノだったが、歳末の航空予約のトラブルに巻き込まれ、
代替え席を不服として全てキャンセルしてきたそうだ。付き合い始めて4年余り、初めての事だ。
村越も帰省はしないと伝えてはあったが、まさか本当にやって来るとは。
休暇を恋人と過ごす。喜ばしい事であるが、今年ばかりは少々迷惑だ。
ジーノの相手をしていたら年賀状が寒中見舞いになってしまう。親しき仲にも礼儀ありという諺がある。
せめて正月、世間的に正月と呼ばれる期間中には…ぐるぐる思考を巡らせるうち、村越はふと気づいた。
猫の手ならぬ王子様の手を借りればいいではないか、と。



「僕は君のお手伝いさんじゃないんだってば!」
「頼む、終わったら何でもしてやる。宛名はここから印刷するだけだから。絵柄は適当でいい」
「僕にこんなことやらせたの、君が初めてだよ!」

怒り心頭のジーノを置き去りに、村越は家を飛び出した。待ち合わせ時間ぎりぎりだ。
全く、あちらを立てれば此方が立たない。優先すべきは取材のほう。年賀状の早い遅いなど体面の問題だ。
ジーノが放り出してしまったのなら仕方ないと諦めもつくだろう。投げやりな気持ちを抱え、村越は走った。。
毎年の習慣を疎かにしてしまった後ろめたさが残っていたのか、取材は少々手間取った。今更気にしても仕方ない。
途中から開き直って何とかインタビューが形になったのは夕方。
とにかく家路を急いだものの、辿り着いた頃には日が暮れていた。
これは、年内に出すのは無理だなと肩を落とした村越の目前で、勢いよく玄関のドアが開いた。

「コッシー!何度連絡したと思って…」

ジャケットを羽織ったジーノが、しかめ面で村越を見上げていた。
不当な労働から逃げ出すにしては遅すぎる。手にしていたのは年賀葉書。
「杉江 勇作様」という宛名になっている。
連絡、と聞いて携帯を確認してみると、着信リストにジーノの名前が並んでいた。

「すまん、さっき終わったところでな…ジーノ、その葉書は」
「まったくもう…印刷は終わったよ。葉書が一枚足りないんだけど、この赤いのって郵便局にならあるのかい?」
「あ、ああ…」

思わず携帯を取り落としそうになった。印刷が、終わっている?

「一方的に頼み事をしておいてアフターフォローが無いなんて、クライアント失格だよ」             
「…すまん」
「年賀状って、クリスマスカードみたいで楽しいね。自分で出す気はないけど、つい夢中になっちゃった」

ジーノがにっこりと微笑む。冬の夜空の下で、ほっとするような温かい笑顔だ。

「…ありがとう、本当に助かった」

 不精が好奇心に打ち勝ったようだ。器用なジーノがその気になってできない事などない。
 いつもの気紛れではあるとしても、感激で涙が出そうだった。
 
「まあ、この位のこと、礼には及ばないさ。そうそう、葉書が足りないんだよ。
 タッツミーのぶん。チームの住所録に載ってなかった」
「ああ…そうか」

達海の住所を村越は知らない。村越が新入団の年、彼は寮に居たし、年賀状のことを考える前に移籍してしまった。
戻ってきてからはずっとあの汚い部屋住みになっている。

「まあ別に…気にする人じゃねえし」
「えー、お世話になってるのに、タッツミーにだけあげないなんて失礼じゃない?
 住所が分からないならクラブハウスに出せばいいよ。タッツミー様宛てで」
「…達海猛様宛てな。でも葉書、足りないんだろ」
「だから買ってくるってば。チームのボスにはとっておきを贈るべきだよ」

ああ、自分は何と果報者なのだろう。
ジーノは、いつだって村越の窮地を救う。流石は王子様である。

「ありがとう、ジーノ」

どんなに苦しいときも、諦めなかったのはこの笑顔のお陰だ。
スポーツマンにしては着痩せて見える肩を抱き寄せた。夜風で冷えた首筋に、温く柔らかい頬が当たる。
 
「ああ、もう…大げさだなんだから。お隣が帰ってきたらどうするの」

迷惑そうに顔を歪めつつも、口元が笑っている。その端に唇を重ねた。
気障すぎるなとも思ったが、ジーノが珍しく照れているのが可愛らしかった。たまに見せる、年下らしい表情は反則だ。

「じゃ、もうできたのは出してくるね」
「ああ、飯作って待ってる。明日はお前とゆっくりできるな」
「ふふ、良かった。お役に立てて嬉しいよ」

実を言えば他にもやる事は残っていたが、にこにこ笑うジーノを見ていたら、せっかく恋人といるというのに、
せせこましく休みを消費するのが勿体なく思えた。
よくよく考えれば年内にやらなければならなかったのは年賀状と掃除くらい。
日頃から清潔にしている村越の部屋は、換気扇掃除等の手間のかかるものを除けば年末に片付けるものはない。
今度ハウスクリーニングでも呼べばいい。思いを改め、年末と元日はジーノとゆっくり過ごした。
数の子や煮しめなど、おせちらしい総菜を少しと雑煮くらいは用意して、学生サッカーを横目に緩慢な正月を過ごした。
気の向いた時に寝たり、恋人の肌に触れたり。手軽なバカンスだねとジーノは笑っていた。

 事の子細を、村越が把握したのは一月二日のこと。
毎年恒例の箱根駅伝TV観戦の為に早起きした村越は、ポストに葉書が溜まっているのに気付いた。年賀状だ。
出すことに執心しすぎて自分も貰うということを失念していた。
元日はとっぷりと甘い時間に浸っていて、新聞を取ることすら忘れていた自分に呆れる。
今年もあいつに振り回される一年かと自嘲しつつ、出し忘れはないかと年賀状のチェックを始めた。
きっちり元旦に届く面子は決まっている。チームメイトなら堺や堀田、黒田あたり。
若手で早いのは赤崎。今年は椿や世良からも来ている。休みで顔を合わせていなくても、差出人の名前を見れば自然と相手を想うものだ。
近頃ではメールの方が多くなってきたらしいが、手から手へ届くものはやはり良いものだ。
感慨に耽りながら葉書の束をチェックしているうち、見慣れない名前を見つけた。殿山充。
しまった、と村越は嘆息した。住所録に入れていなかった。
自分の住所は誰かから聞いたのだろうが、直接聞いてくれれば俺もその時に聞けたのに。
当人を恨んでもしょうがない。控えめで目立たない青年である。
同時期に入団したガブリエルは寮生だから、すっかり油断していた。葉書の残りはあるだろうか。
ジーノが予備を買っていないかとパソコン周りを探る。なければ買ってくるしかない。
三区に選抜で母校生が出場するので、それまでには帰ってきたいなと算段しつつプリンタの蓋を開けると年賀状が挟まっていた。
宛名に「殿山 充様」とあった。
まさか、と目を見開く。綺麗に印字された書体。知らない住所。ジーノが作っておいてくれたもののようだ。
何とできた相方であろう。村越もしっかり者だ、頼れる男だと褒められる事は多いが、抜けている部分も多い。
そういう所を見てくれ、サポートしてくれる存在は有り難い。
殿山一人だけ年始に出すことになってしまったが、村越の胸はジーノへの感謝に満ちていた。
今年も腰を据えて駅伝が見られるのもあいつのお陰だ。しみじみとしているとテレビからピストルの音がした。
まずい、スタートしてしまった。近くのポストに早く入れて来ようと葉書を持ち直したとき、手元が狂った。
床に落ちた葉書。裏に描かれていたのは、とある白い兎のマスコット。


「だって、適当でいいって言ったでしょ?」


◇◇◇


「やっぱりなぁ…そういう人がいると思うんだよコシさんには!美人でさあ、こう、淑やかな感じで…」

二人で協議の結果、選んだのは村越の恋人ということで落ち着いた。黒田は村越を尊敬している。
もちろん杉江だって尊敬しているが、黒田のそれは崇拝に近い。
マーマレードのトーストを囓りながら、杉江は村越の(というよりは黒田の)理想の恋人論に付き合っていた。
 
多少行き過ぎのところはあっても、黒田は村越の幸せを純粋に願っている。
本人がそれでいいならと、杉江はコーヒーを一口啜った。

「大人しくて、三歩下がって付いてくる感じで」

(我が儘で、放っておいたらいなくなる感じで)

「本当に女らしい人だと思うんだよな…」

(女じゃなかったりして…クロ、傷つくかなあ)

 各自思い思いのインスピレーションを胸に、謎は深まるばかり。
 
 

◇◇◇



「まさか…監督にも」
「うん、タッツミーにはメッセージも添えておいたよ」

得意げに胸を張るジーノ。村越はその場に膝をつき、崩れ落ちた。
フルマラソンを走りきったかのような倦怠に、目眩はしばらく収まらなかった。


◇◇◇


「あけましておめでとうございます!達海さん、年賀状ですよっ」
「んあ…」


仕事始めの一月四日。達海の元に村越の年賀状が届いたのはその日の朝だった。
元気に出社してきた有里に押しつけられた紙束を、寝ぼけ眼を擦りつつ流し見る。

 
「おーおー、杉江に佐野に…みんな礼儀正しくて結構だねえ…ん?」
「どうしました?あ、可愛い」
「これ…村越からだ」
「え、ええっ」
「チャオってあいつ…ヨーロッパに移籍でもしてえのかな…俺あいつイジメすぎ?有里、どう思う?」



愛らしいウサギの傍らにあったのは「Ciao」の一言。流麗な手書き文字。
筆跡に心当たりもなく、二人は絵の中のウサギとよく似たポーズで、小首を傾げていた。








 
 
 



END
 
 




一月インテ無配のリサイクルです。 寮には大量にミッ○ィー年賀じょうが…微笑ましいことです。 王子をプライベートでおまかせモードにするのは危険ですねコッシー(´▽`;) <<20120610・木綿>>