- insomma -
プロのアスリートとして、社会人として世に出ていても、苦手なことは数え切れないほどある
その一つが、世間話
今更得意になりたいと思っている訳ではないが、困るときもあるいつもと違う美容室に行ったときや、
街で旧友にばったり出くわしたとき、そして、少々苦手なチームメイトと、ロッカールームで二人きりになったとき
「コッシー・・・そんな顔して露骨に嫌がることないじゃない」
「嫌、がってねえよ」
ジーノとはチームで一緒にプレイして
もう1年は経とうかといったところだが、どうも馴染めないでいた。
奴がピッチの上において、チームの要になりつつあることは、自他ともに認めるところである。
それに何か不満があるという訳ではない。
黒田や堺あたりは、軽薄さ・・・というか奔放さに苛立っているようだが、
俺自身はこいつを不思議と憎めず、深刻な問題になりそうなこと以外はあまり口は出さないようにしていた。
確か年が5歳以上離れているはずで、そういった世代の差も関係しているといえば、そうなのかもしれない。
プライベートでの接点は、もちろん無い。
「そう」
否定にもなっていない俺の言葉に対して、
ジーノの答えはその二文字だけだった。
俺とは違う、お喋り好きなこいつの事だ。
必ず長ったらしい軽口が返ってくると思った。
「意外そうな顔だね」
ジーノが微笑している。どうやら、反応を観察されていたらしい。
「僕だって、そうそう無駄なお喋りはしないよ」
俺と話すのは無駄ということか。我ながら卑屈な考えだ。だが、そういうことだろう。
元々関わりが少ない相手。お互いただのチームメイトでしかない。
「ああ、違うよ。コッシーと話すのが無駄というわけではなくてね」
こいつ、心が読めるのか?俺は、疑わしげな目を向けていたのだろう。ジーノは少し困ったように整った眉を下げた。
「嫌いな相手と話したって、無駄だろう?・・・って恐い顔しないでよ」
「話の先が見えねえ」
「逆に考えてみてよ。逆なら、色々話してみたくて堪らない。違うかい?」
ますます分からない。話が飛んでいるのだろう。そう思うしかない。
「ふう・・・僕って、損だよね。どうして世慣れているように見えるのかな」
「お前はいつも余裕があるように見える」
「そうかな?僕の心はざわめいているよ。花の色の意味に気付いた少女のように」
ジーノの目が細められる。揺らぐことのない瞳からは、何も読みとれない。
「これでも、困っているんだよ。何を話そうかな、どうすればいいのかなって・・・君といるとさ」
こいつには付き合いきれん。ジーノから目を逸らす。きっと、からかっているだけだ。
いつも固い俺が困る姿を見たい、といったところだろう。
「からかうのもいい加減にしてくれ・・・お前は俺と喧嘩でもしたいってのか」
挑発気味に放った俺の言葉にジーノはふぅ、と一息、そして沈黙。
「・・・まだわからないのかい?」
いつも通りの、人を食ったような言い草。無視すればいいと思うのだが、
今日は何故か心に引っかかる。つい睨むように見やると、心底呆れた、といった風の顔と目が合う。
瞬間、ジーノの整った顔が崩れる。おかしくて堪えきれない、といった風に顔を手で覆い、
声を上げるのを我慢しているようだ。
「いったい・・・」
何がおかしい、と問いただす俺の言葉に重ねていつもと違う、凛とした声が被さった。
「僕はきみのこと」
こいつは何なんだ一体。わけが分からないにも程がある。
顔をしかめて二の句を待つ俺にジーノは嫌みなほど優雅に人差し指を鼻の前にかざし、
秘密、とでもいいたげなポーズで、告げた。
「すきってことさ」
4巻名古屋戦前の二人にあまりに萌え過ぎて、最後の台詞をどうしても王子に言って欲しくて
最初と最後だけみっつが書きました。
間は全部木綿ちゃんに書いてもらいました。丸投げです。まるもうけです。
木綿ちゃんは大分苦労したようですが、当方、反省はしておりません。
書いたのは2010年10月・・・ハマりはじめのころかぁ・・・
<201010・みっつ&木綿>
|