-Il mio lupo -



「何とか言ったらどうだ」

沈黙に堪りかね、先に口を開いたのは村越だった。
その鍛えられた太腿の上に、ジーノは横座りしている。
村越より細身とはいえプロアスリート、もう少し荷重があってもいいはずだが、
巧みにバランスを取っているらしく、大型の猫程にしか感じない。
会話を促す村越の言葉を完全に無視し、ジーノは瞳を潤ませながら村越を見上げている。
心なしか息遣いも荒い。
芝の上ですら汗ひとつかかないとされる「王子」が、
こんな表情を見せると知ったらチームメイトは何と言うだろうか。
興味半分、恐怖半分。つまるところそれは、主将である自分との秘めた関係の暴露である。

「いい加減にしろよジーノ、そんな嘗め回すように見るほど面白いか?」

原因は村越にあった。
紅白戦での苦渋、課題の残るプレシーズンマッチ。
あの因縁の男・達海に賭けると誓ったあと、自分に対する喝入れのつもりで刈り上げた頭髪。
単純に4分3分に刈るつもりが、馴染みの美容師に悪乗りされた。
今時の気合いといったらコレだぜと、出来上がった頭は不良学生のようだった。
自分のガキ臭さと嫌という程向き合った直後で、似合いと思えなくもなく。
実際オーナーや件の達海からの評判は良かった。
唯一の誤算があったとすれば、今の状況。膝の上の色男。

「…感想くらい、言ったらどうだ」
「それは普通の言葉で?―それとも、愛の言葉?」

村越は無言で目を逸らした。
床まで共にした相手だが、気持ち悪いものは気持ち悪い。
まさか、こういうのが好みだったとは――知らない方が良かった気がした。

「照れないで。とっても素敵だよ…惚れ直した。なんて、月並みだけどね」

ジーノの長く繊細な指が鎖骨をなぞる。鳥肌が立つのが分かる。
帰りたい。でもここは俺の家だ。何だこのアウェイムードは。

「僕に内緒だったのはサプライズのつもり?悪くないね」

長い睫毛越しの瞳が悪戯っぽく光る。
既に反抗心も萎えた村越は、返答代わりにその肩を抱いた。
次は絶対坊主にしようと固く決意しながら。

ジーノの、男のくせに艶やかな口元がゆるいカーブを描く。

「今年は色んな君が見られそうだ。楽しみだよ」

喉笛にかかる熱い吐息に、(たてがみ)が震えた。




END
 
 




あのニュー髪型は王子超好みだろうなって <<20101103・木綿>>