-恋愛小説家 -
※注 この物語はパラレルです
俺の名前は、椿と言います。
台東区のすみっこ、隅田川のそばのマンションに、大好きな人たちと一緒に毎日楽しく暮らしています。
突然ですが、その大好きな人たちを紹介させてください。
まず、世界で一番、大好きな人。その人の名前はルイジ吉田と言います。
何もかも持たない、駄目な俺を優しく抱いて、愛してくれた、初めての人です。
この人はとてもキラキラしていて、目は宝石みたいで、顔もまるで筆で書いたみたいに整っています。
神様とか仏様が本当にこの世にいたら、こんな姿をしているんだろうって思います。
でも神様とか仏様だと、死んだ人みたいになっちゃうから、王子は自分のことを王子って呼ぶようにっていろんな人に言っているのかなあ。
それなので、俺も王子のことを王子って呼ぶことにしています。
王子みたいなきれいな人が目の前にいることだけでも夢みたいなのに、王子は俺の口にキスまでしてくれます。
キスをするときに、俺の鼻に王子の高い鼻が当たってちょっとこそばゆいけれど、
王子の目を閉じた顔はとっても優しくって暖かくってとってもきれいでたまらないので、ずっと見ていたくって、
俺はくしゃみが出そうになるのをいっしょうけんめい我慢します。
キスしたり、ハグしたりしていると俺は頭の中がなんだかわからなくなってしまいます。
ぐしゃぐしゃってなるような、何かがあふれてくるような、ふしぎな感じです。
王子は、きれいで優しいだけではありません。俺に、気持ちいいことをしてくれます。
思い出しただけで、うっとりしてしまうくらい、最高の時間です。
王子のすらっと細い指が、俺の首と、背中をなぞって、俺の気持ちのいいところを探してくれます。
それだけでも気持ちよくって最高なんですが、だんだんとエスカレートしてきて、
指の間、足の付け根に、大事なあそこの付け根にも王子の指が触れるとつい、目を細めて声を上げてしまいます。
「気持ちよくなっちゃったの?バッキー」
なんて透き通って落ち着いた声でささやかれてしまうと、もうたまらなくなって、ついあそこがぴぃん!とそそり立って、
どうしようもなくふりみだしてしまうのです。本当は恥ずかしいけれど、仕方ないです。だって王子が大好きなんですから、仕方ないんです。
でもちょっとだけ残念なのは、この最高のひとときは、俺だけのものじゃないんです。
俺は王子の二番目、イヤ、三番目の男なんです。この家には王子の男が俺の他にあと二人いるのです。
俺が王子と付き合い出したのは、三人の中では一番最後。椿の花が咲く頃に王子に拾われて、王子の男になりました。
拾われる前のことは、あまりよく覚えていません。兄弟はいたのかもしれないし、いなかったかもしれません。
でも王子はそれでもいいから、ウチにおいでと言ってくれました。俺がどこの誰でも構わない、そう言ってくれたのです。
そのときのことは、その言葉だけしか覚えていません。
でも思い出しただけで、目と鼻から水が出そうなくらい、うれしかったことだけはハッキリと覚えています。
王子の一番最初の男は、ザキさんです。
ザキさんは、本当は赤崎っていう名前で、王子と一番長く一緒に住んでいます。
王子はザッキーって呼んでます。さっきの気持ちの良い、素敵な「いいこと」も、ザキさんが一番最初にしてもらえます。
ザキさんがしてもらっているのを見るだけで、あそこが立ってしまいそうになるんですが、
はしたないからやめろ!とザキさんに言われているので、いっしょうけんめい我慢しています。
ときどき我慢しきれなくなっちゃうんですけどね…
ザキさんは物知りで、いろんなことを俺に教えてくれます。
俺は頭が悪いのでよく怒られてしまうけれど、お兄さんがいたらこんな感じなんだろうって思ってます。
ザキさんはとっても頭がいいので、王子の相談にもよく乗っているみたいです。
でも二人が話していることは難しくてなんだかよくわからないので、本当に相談事なのかはよくわかりません。
ザキさんは、俺は王子のことを好きとか考えたことない!なんて俺に言ってるけど、本当は王子のことが大好きなんです。
王子がお出かけで家にいないときはずっと、そわそわそわそわリビングを行ったり来たりしていて、
帰ってきた王子の足音が外から聞こえるやいなや、俺より先に玄関に迎えに行くくらいですから。
もしかしたら、俺が王子のこと好きな気持ちよりもザキさんはもっと大きい好きな気持ちなのかもしれません。
でもその大きいは、ザキさんが俺より年上で俺より長く王子の側にいるからであって、
俺がザキさんと同い年で、同じくらい長く王子と一緒にいたら、きっと同じくらいの好きになったと思います。
いや、それよりも大きいかも知れません!なんて、今言ったことはザキさんには内緒にしててください。
王子の二番目の男は、コシさんです。コシさんは本当は村越さんと言います。王子はコッシーと呼んでいます。
コシさんがこの家で一緒に住むようになったのは、俺より後なのですが、コシさんは年上だし、
王子との付き合い始めはザキさんがこの家に来るよりも先だったらしいので、コシさんは二番目ということになっています。
ちなみにこの順番はザキさんが決めてくれました。
コシさんは、三人の中で、ちょっと特別です。この家で一番背が高くて、力持ちです。昼間はほとんど家にいません。
コシさんは家の外で「編集者」という仕事をしているそうです。毎日夜遅くに帰ってきます。
コシさんは特別なので、王子が起きているときは、王子と俺とザキさんが玄関まで迎えにいきます。
王子がもう寝てしまったときは、俺とザキさんが迎えに行きます。
その度に、頭をわしゃわしゃっとなでてくれるのが俺は大好きです。
ザキさんは髪型が乱れるのであまり好きじゃないと言ってますが、口ではそう言ってても、
我慢しきれずあそこを振り振りしているので、本当は気に入ってるんだと思います。
何でなのか、俺にはよくわからないけど、王子にとって、コシさんは、男として、特別なんです。
コシさんとキスするとき、王子は見たことないようなうっとりとした顔をして、コシさんからなかなか離れようとしません。
ぎゅっとコシさんを抱きしめて、身体をすり寄せるようにして甘えるんです。俺やザキさんはそんなことされたことありません。
されたら、俺やザキさんはつぶれてしまうかもしれないけど…
でも、それよりも何よりも、コシさんだけ、王子と一緒に、寝室で、王子と一緒のベッドで寝かせてもらえるんです!
俺とザキさんはコシさんが帰ってこない日だけしか寝室に入れてもらえないし、ベッドの上にも上らせてもらえないのに…
きっときっと、あのふかふかベッドの上で、楽しくっていいことしているんだろうなあ…
俺とザキさんは、王子とコシさんが居るときは、寝室にも入れてもらえません。
なので俺はコシさんが王子と「いいこと」をしているところは、見たことありません。
ザキさんもみたことないって言ってました。コシさん、秘密の「いいこと」してもらってて、なんだかうらやましいなあって言うと、
ザキさんはみっともないからやめろと言います。
コシさんが俺やザキさんと違って特別なのは、にんげんといぬの違いらしいですが、俺にはよくわかりません。
コシさんも、俺とザキさんに負けないくらい、王子のことが大好きです。
だっていくら王子でも、王子に足の上に乗られたりしたら、俺やザキさんなら痛くてたまらなくて大急ぎで逃げ出すはずなのに、
コシさんは王子を足の上にのせても全然逃げたりしないで、じっと耐えて王子の好きなようにさせているんです!
その上でキスをずーっと長い間してても全然くしゃみしないんです!すごい!
コシさんには俺やザキさんにとって大事なあそこ―しっぽが生えていないので、
キスされたり王子になでられたりが嬉しいかどうかはよくわからないけど、ときどき王子がソファで寝ているときに、
頬や額にキスしたり、こっそり「すきだ」とか「あいしてる」って優しい顔で言ってるから、コシさんも王子のことが大好きだと思います。
俺も、コシさんは俺のことをよくほめてくれるので、大好きです。
ザキさんはコシさんのこと気に入らないって言ってるけど、散歩しているときと、
ボール遊びをしているときとブラッシングをしているときは、コシさんのことが大好きだと思います。
コシさんは昼間、外で仕事をしていますが、俺とザキさんはお家を守る仕事をしています。
窓からカラスが入ってこないか、とか王子の大嫌いなあの虫が出てこないか、とかをいつもけいかいしています。
王子はそんな俺とザキさんを毎日たくさんほめてくれて、散歩に連れて行ってくれたり、お家で遊んでくれたりします。
そのほかのほとんどの時間は、王子は仕事部屋でお仕事しています。
王子は黒い線が出てくるキラキラした短い棒を持って、白い紙にさらさらきれいな線を書いていきます。それが王子のお仕事です。
寝室には立ち入り禁止ですが、仕事部屋には入っても怒られません。
王子が何かをさらさら書いている途中に足下によると怒られますが、うんうんうなっているときに王子のそばによると、
「ザッキーにバッキー、続きを書いてみて」と言われて短い棒を差し出されたりします。俺がザキさんに仕事部屋で怒られて、
悲しい声を出したときには「バッキー、そのフレーズ、ナイスアイディアだね!」と言って怒られたのにほめてくれたりもします。
王子はときどきコシさんみたいな変な声の人や「編集者」って言う人とふしぎな機械でお話したり、歌を歌ったりしながら、
机に向かって、楽しそうにいろいろな線を書いています。線を書いて、何になるのか俺にはちっともわからないのですが、
ザキさんは物知りなので、俺に教えてくれました。
王子のお仕事は「恋愛小説家」だそうです。
-La fine-
一月インテ無配のリサイクルその2。
某小説を読んでインスパイアなオマージュ的な…
続きも是非書きたいと意気込んで早半年…うひょ!
サッカー選手以外の王子は何が似合うかな〜と思って小説家です。
恋愛とかエッセイとか純文学とか書いてるんだと思います。
<<20120610・みつ>>